ラプソディー

十数年前、当時住んでいた会社の寮の隣にＭ課長が引越して来た。
Ｍ課長は生まれも育ちも東京の方。
単身赴任で大阪に転勤して来たのだった。
その時、Ｍ課長は４０代後半だった。
風貌は遊び人風、”べらんめい口調”で喋り服装はお洒落だった。
また、車はアルファロメオで関西人とは違った、いかにも東京人という感じだった。
単身赴任で暇だったのだろう、僕たちを誘ってよく飲みに連れて行ってくれた。

それから２,３年後、阪神大震災に襲われた。
幸いにも僕たちの被害は比較的に少なかったが仕事が大変になったのだ。
あの頃、確か２,３ヶ月は休み無く働いたように記憶している。

特にＭ課長は忙しく、神戸で倒壊を免れたビルの強度を調べるため１日中神戸の街
を歩き続けたのだった。

その仕事も一段落した頃からＭ課長は体調を崩してしまった。
最初は仕事の疲れで単なる過労のように思っていたが、日に日に状態が悪くなって
いった。

本人は嫌がったが病院で精密検査をしたのだが、結果は癌だった。
単身赴任のまま大阪で入院するより、東京に帰ったほうがいいという結果になり
東京に帰ることになった。

引越しの日、僕たちも引越しを手伝った。
作業はＭ課長の奥様と僕たちでほとんど荷物をまとめた。
Ｍ課長は具合が悪かったのだろう、静かに椅子に座っていた。

荷物の梱包も終わり、Ｍ課長と奥様に挨拶をして部屋を出て行ったのだが、奥様
が外まで送ってくれて「必ず良くなって帰ってきます。その時はまた、よろしく
お願いしますね。絶対に戻ってきますから・・・」そう言って涙ぐんでいた。

 しばらくして、手術をした後のＭ課長と電話で話しをした。

いつもどおりの”べらんめい口調”で元気に話すＭ課長。
僕は「元気じゃないですか！良かったですね！」と言うと、Ｍ課長は明るく笑い
ながら言った。

「癌っていうのは一度は奇跡の生還をするんだよ。これからが勝負だ！」

その何ヶ月か後、Ｍ課長の容態が悪化して再入院しているということを聞いた。
そして僕たちは東京までお見舞いにいった。
僕たちは病室に入ってベッドで寝ているＭ課長を見て驚いた。
あの元気だった面影はなくなり、やせ細った体は以前の三分の二位に小さくなった
ように見えた。

しかし僕らを見たＭ課長は「おう！よく来てくれたな！うれしいよ！」と大きな
声で呼びかけてくれるのだ。
しかし無理しながら喋っていたのだろう、その後はあまり会話も続かなかった。

それから４ヵ月後、Ｍ課長は亡くなった。

 

忌野清志郎が癌で亡くなった。

以前も書いたことがあるが、ＲＣサクセションや山下達郎は高校時代、洋楽しか
興味を持たなかった僕に、日本のポピュラーミュージックの素晴らしさを教えて
くれたミュージシャンである。

特に８０年代のＲＣサクセションのアルバム『シングル・マン』、『RHAPSODY』、
『PLEASE』、『BLUE』そして当時はカセットテープのみ発売だった『Yeahhhhhh
...at武道館』等については最近でもよく聴くアルバムである。

中でも『RHAPSODY』の完成度の高さは、日本のＲＯＣＫアルバムで最も優れた
アルバムだと思っている。

清志郎は、療養のため活動を休止していたのだが、昨年２月には日本武道館で
「忌野清志郎 完全復活祭」というコンサートで復帰した。

僕は”清志郎も復活して良かった！”と喜んでいたのだが、約半年後に癌の再発と
いう発表があった。

その時、僕は当時のＭ課長の言葉を思い出してしまった。

「癌っていうのは一度は奇跡の生還をするんだよ。これからが勝負だ！」

残念ながら、悪い予感通りになってしまった。

近年の忌野清志郎としてのアルバムはあまり聴いていなかったが、やはり僕として
は忌野清志郎の”あのボーカルが聴けない”という事は残念で仕方が無い。

高校時代に観たＲＣサクセションのコンサートで過激な発言をしながらも、恥ずかし
そうにテレ笑いをする清志郎の純粋な表情が今でも印象に残っている。

 

 

ラプソディー　／　ＲＣサクセション

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コメント 33

突然の訃報で驚きました。
私の中では「パパの歌」がかなり強いイメージとして残ってます。
素敵な歌声は天に昇って歌い続くのでしょうね。


by しゃおたお (2009-05-04 09:30) 

え～～～ん
私はとても悲しいです。
by koto (2009-05-04 17:19) 

「い・け・な・い ルージュマジック」「サマー・ツアー」はリアル・タイムで繰り返し聴いたものです。実はこのラプソディーは今初めて聴いたのですが、ギターもヴォーカルもいい感じですね。サックスは梅津でしょうか。

清志郎の病状はずっと気になっていたのですが、こうやって唐突に悲しい知らせが飛び込んでくると、頭が真っ白になります。残念でなりません。
by 鯉三 (2009-05-05 00:58) 

ニュースで聞いて以来、ずっとYouTubeで聴き続けています。
高校の時のことがよみがえってきます。
by ayumusic (2009-05-05 17:23) 

追悼のために、アルバムを聴いてあげてください。
それが、贐になりますから。
by たいへー (2009-05-05 21:47) 

清志郎さんとM課長さんのご冥福をお祈りします。
いやきっとあの世でも楽しくやってらっしゃると
たしかに思いますです。 (ﾟ-ﾟ*)(｡｡*)ｳﾝｳﾝ
by neko (2009-05-05 22:45) 

長いライブで全力で歌えるように走り込みをしたりと、実は相当ストイックな人でした。『でも、なかなかロックンローラーというものにはなれないねぇ。なれたらロック止めるね』と語ったり、常に前進し続けていました。
一瞬見せる表情と綺麗な目が印象深かったです。
youtubeを繰り返し観ているうちに、つい涙が...
by nexus_6 (2009-05-05 23:04) 

しゃおたお さん
”パパの歌”は同業者のＣＭソングとして使われたので僕としてもたいへんに思い入れの強い曲です。
世のお父さん達にとっては心強い曲だったと思います。
by 蟹道楽 (2009-05-06 00:59) 

xml_xslさん
ありがとうございます。
by 蟹道楽 (2009-05-06 00:59) 

ab-ovoさん
ありがとうございます。

by 蟹道楽 (2009-05-06 01:00) 

kotoさん
僕も泣きたい位悲しいです。
by 蟹道楽 (2009-05-06 01:01) 

shinさん
ありがとうございます。

by 蟹道楽 (2009-05-06 01:02) 

鯉三さん
僕は飯を食いながらＮＨＫのニュース見ていたのですが、突然緊急ニュースとして清志郎の訃報を知りました。
正直、ウソやろ・・・って思いましたが、ＮＨＫが2度も同じニュースを流した時は現実と受け止めました。
ちなみにサックスはおっしゃるとおり梅津です。
by 蟹道楽 (2009-05-06 01:07) 

なちゃさん
ありがとうございます。

by 蟹道楽 (2009-05-06 01:07) 

ayumusic さん
全く僕も同じです。
この2日間、ＲＣのＬＰばかり聴いています。
by 蟹道楽 (2009-05-06 01:08) 

たいへー さん
そうですね。
それが一番贐でしょうね。
しかし、この2日間はそのような事を意識しないのにＲＣのＬＰばかり聴いています。
by 蟹道楽 (2009-05-06 01:11) 

neko さん
清志郎のことですから、あの世でジミヘン（Jimi Hendrix）やオーティス（Otis Redding）に会おうと自転車で走っているでしょう！
また、Ｍ課長はあの世でべっぴんさんを探して走っていることと思います。
by 蟹道楽 (2009-05-06 01:30) 

nexus_6さん
本当に、純粋な人間だったと思います。
あのはにかむ顔が忘れられませんね。

こういう純粋なロックンローラーって世界中探してもめったにいないでしょう。
by 蟹道楽 (2009-05-06 01:34) 

僕もいつかはこんな日がって思ってたけど、やっぱり来ちゃった
ROCK'N'ROLLERがブルースを抱えて逝ってしまったね
どうしたんだい　Baby!　
格好良かったぜ！　
by Qoo (2009-05-07 06:30) 

Qooさん
書いた通り、僕も何となく予感していました。
これはあまり良くないな・・・・・と感じました。
ホント、格好よかったですよね！
by 蟹道楽 (2009-05-07 23:14) 

大学受験の頃だから、もう30年前にもなりますが・・・
ギターの小川銀次がまだ在籍していた当時、渋谷「屋根裏」の荒削りでパワフルなライブがNHK-FMから聞こえてきた時は、物凄く興奮しましたね。
今でも鮮明に覚えていますよ。
って、以前にもコメントしましたっけ？
いずれにしても、心の中で合掌です。
by ベアトラック (2009-05-08 11:29) 

paceさん
ありがとうございます。
by 蟹道楽 (2009-05-09 12:20) 

ベアトラック さん
アルバム”ＲＨＡＰＳＯＤＹ”での小川銀二は実にいい演奏ですね。
高校、大学時代に観た頃のＲＣはエネルギッシュで驚くほどの勢いがありました。


by 蟹道楽 (2009-05-09 12:27) 

お元気ですか～♥
蟹さんに負けず劣らずサボリ気味の私ですが
まさかお忘れになりました??

清志郎さん、私は役者のときがとても好きでした♪
セリフを言ったあとに思わず素になってはにかんでいる顔とかに
(そのままOAされているのも味わいになっていましたね)
少年ぽさや純粋さがのぞいていてとても良かったです
私が小学生のころにはRCサクセションはフォークソングを歌っていましたが
いつのまにかロッカーになってたんですね
by かおり (2009-05-09 17:00) 

清志郎さん、徹子の部屋が放映された時には、もう既に転移が見つかっていたのですね。収録の時は武道館のライブを映していましたが、
手放しに復活を喜ぶ黒柳さんを尻目に、どこかふっと、遠い目を
なさる清志郎さんが、不思議な印象でした。
でもまさか、こんな早く逝ってしまわれるとは・・・
又一人、昭和のイイ男がひとり彼岸へ逝ってしまったのですね（合掌）

星が丘の近くに住んでいらっしゃったのですね。
２０年前というと、私は４０歳、息子が小学生、
ロックもフォークも遠くなりがちで、
あくせく主婦まっしぐらな時でしたね。
by 薔薇少女 (2009-05-09 23:17) 

自分とはほとんど繋がりないけど、
やっぱり切ないですね。
意識せずに耳に入ってきていたCMソングも、
今聴いたらしみちゃうだろうな。
さっき、”ラプソディー”がもう染みました。


by kouan (2009-05-10 21:20) 

かおりさん
お久しぶりでございます。
姫のことを忘れた？
何をおっしゃる！
姫様のことを忘れるわけございません。
ＲＣのフォーク時代って全く知りません。
小学生の頃からＲＣを聴いていたなんて！
お・ま・せ・さ・ん！！！
by 蟹道楽 (2009-05-10 23:47) 

薔薇少女 さん
徹子の部屋に清志郎が出ていたなんて知りませんでした。
貴重なお話、ありがとうございました。
>>昭和のイイ男
まさしくそうだと思います。
薔薇少女 さんらしい素晴らしい表現ですね。
名古屋にすんでいたのは数ヶ月ですが、結構色々な思い出があります。
by 蟹道楽 (2009-05-10 23:52) 

kouan さん
”ラプソディー”しみましたか！
ありがとうございます。
この曲はＲＣを聴き始めた高校時代、一番好きだった曲ですし、清志郎らしいバラードだと思います。
今でもＲＣの中でもっとも好きな曲です。
by 蟹道楽 (2009-05-10 23:55) 

随分遅刻してしまいました。

訃報は、2日の深夜に夜更かししていたら、
インターネットニュースで見て・・・
最初、目を疑いました。
ショックでした。
日本のロックは格好良い！
世界中にそういって自慢できるミュージシャンでしたよね。
神様は、よりによって彼の喉に病を与えた。
一度打ち勝ったと思ったので、やりきれない気持ちでした。

まだ、実感がないのです、不思議ですね。
ご冥福をお祈りします。
by bluebird (2009-05-14 00:03) 

bluebird さん
まさに、ＲＣというか清志郎は”日本にもこんなにカッコ良いロックンローラー”がいるんだよ！と言える存在でした。
あの頃、「ＲＣ＝日本のローリングストーンズ」と言われていた事がありましたが、僕を含めて”ストーンズファン”はみんなそんなこと全く感じてもいませんでした。
この様に言われることが不思議でしたし、その感覚が全く解りませんでした。
まさしく日本製のロックバンドでした。
by 蟹道楽 (2009-05-17 00:16) 

warkoさん
ありがとうございました。
by 蟹道楽 (2009-05-17 00:17) 

はじめまして☆
素敵なサイトですね＾＾応援してますよ♪

by メル友 (2010-05-14 10:38)